日喉連50周年に寄せて

つんく♂    総合エンターテインメントプロデューサー


日喉連50周年おめでとうございます。 
私は今年の5月14日開催の「50周年記念祝賀会」にお招きいただいていましたが、新型コロナウイルス感染拡大、および緊急事態宣言のために祝賀会が延期になった旨の通知をいただきました。
 延期になったことは残念でしたが、50年もの長きにわたって継続してきた日本喉摘者団体連合会の活動が、これからも全国の喉摘者の方々の支えとなることを願っています。
 また、日本全国の喉摘者の方々の社会復帰のために半世紀も前にこの組織を作られた先人の方々の熱意と努力に敬意を表したいと思います。

 

◆今回ご多忙なつんく♂さんより、色々なお話を伺う機会をいただ

 きました。

 

 改めてご紹介するまでもなく、つんく♂さんは、現在は総合エンターテインメントプロデューサーとしてご活躍中です。

 平成27年(2015年)2月に銀鈴会に入会されましたが、それまでの経歴、病状、家族等については同年9月発行の著書『だから、生きる。』(新潮社)に記載されています。今回は同じ喉摘者としてのお話を色々伺いました。

 

1.月並みな質問ですが、銀鈴会のことはご存じでしたか?

 

つんく♂ :いえ、病気になって声帯の全摘手術をすることが決まってから知りまし

     た。

     病院内で行われる講習会で妻が食道発声についての講義を受けて知りま

     した。僕は妻から聞きました。

 

2.食道発声の他にシャント発声、EL発声がありますが、食道発声を選

  択された理由は?

 

つんく♂:若い年齢でがんになるのはよく無い(老いてからでもよく無いんです

が)んですが、まあ、全摘時の僕の年齢がまだ若かったということもあったので、シャントを使う前に自力でどこまで発声出来るかに挑戦してからその次の段階、そのほかの方法を試そうと妻と相談して決めました。そういう意図もあって食道発声に挑みました。

 もうひとつ、ハワイに移住しようという計画もあったので、具体的にシャントの場合、定期的なメンテナンスも必要というのもあったので、ハワイの医療費は爆発的に高いので、自力の食道発声でなんとかなるなら、それに越したことはないしと。

 

歌手、作曲家、総合エンターテインメントプロデューサー。

バンド「シャ乱Q」で活躍。また、モーニング娘。などをプロデュース。

楽曲「「LOVEマシーン」は一大ヒットに。2014年喉頭全摘出。銀鈴会会員。

著書に「だから、生きる。」(新潮社)

などがある。


3.最初に原音「あ」が出たときのご感想を聞かせてください?

 

つんく♂:初回のレッスンの日までに、あらかじめネット上に出てくる記事(発声法など)や誰かの体験記なんかを読んで、理屈的には発声の仕方を理解しながら自宅で自力で食道発声というものを試してみましたが、全くどうやっていいものか、何が正解か分からないまま、こりゃ、俺は無理かもな、なんて思いながら銀鈴会の門をたたきました。

 初日にレッスンに参加したら、とたんに「あ」と出ました。今思えば、まあ、それが「あ」なのか「ゲップ」なのか、分別はつかないけど、「出来ますね。」「やれますよ。」「すぐもっと話せるようになりますよ。」という食道発声の先輩でもある、指導者の方々からのお褒めの言葉が鍵というか、それによって、自信とやる気が出てきました。

「あ、こんな感じでいいのか。なるほど」と。

 そして、僕よりも数か月前から練習を始めている先輩の練習している姿をみました。

 銀鈴会に来て1か月の人、3か月の人、半年くらいの人のラインがあって、その方々の声の感じを見てると、「なるほど、こうやって進んでいくんだな」という感じで、時間の経過とともに上達具合と声の感じがすぐ理解出来たので、自分の未来が想像でき、また目標にもなりました。

 数あるがんの中で、同じ病気で同じ障害をもった人間が術後こんなに集まる病気ももしかしたら全摘者のみじゃないかって思いつつ、指導そのものが、声帯の全摘者から直接教わるので、自分に置き換えて考えやすいし、やれば出来る、こんな風に話せるようになりたい! とそう思えるすごい場所だったことを覚えています。

 

4.食道発声練習中にはご自宅でも練習されましたか? 

 

つんく♂:僕の場合、当時、子どもも小学校に入ったばっかりで、文字もろくに読めなかったので、意思疎通するには食道発声を習得するのが手っ取り早かったというのもあって、練習というか、銀鈴会に行って覚えてきたものをそのままその午後から子どもらとの会話でつかって、声にならないような声であっても子どもと話すということを繰り返してるうちに、少しずつ覚えていったように思います。

 なので、訓練らしい訓練をした記憶はないけど、自己流も含めて、あれこれと、どうやったらもっと音になるかなとか、こうした方が楽だなとか、そういうのは無我夢中で一人の時に試してたように思います。

 それが訓練や特訓といえばそうですが、苦労した、がんばったという意識もないので(夢中で、楽しみながら、やっていたので)「発声覚えるの大変だったでしょう?」って聞かれると「そうですね」と言うことも多いけど、実際、そういう実感はあまりなかったように思っています。

 あ、あとは、まあ、お恥ずかしい話ですが、元歌手というプライドもあって、これくらいサササっと出来なきゃダメでしょ!っていう自負もありましたね。

 ただ、最初の頃に先生から「自分の話している顔を鏡で見ながらやらなきゃダメだよ」って言われてたんですが、最初の方にとにかく子どもと話すことばかりを考えてたので、見栄えとか、他人からの印象をあんまり気にしてなかったので、そういうところは自己流でなく、ち ゃんと先生の言うことを聞いておけばよかったなって思います。

 今、どうしても空気を胃の中に落とし込む時に、口を紡いで、食べ物を落としこむようにして空気を入れる癖がついちゃったので、話すたびに唇をくっつける癖がついてしまいました。

 ビデオなどで自分の話してる姿を見るとちょっと滑稽で、「ああ、ちゃんと習得すればよかったな」って思います。もう結構自己流が体に染み付いたので、今からの矯正はなかなか大変かもしれません。

 

5.日常生活においても、またご家族とも食道発声で会話されておられますか?

 

つんく♂:「食道発声法」で話したりはしていますが、それでもやっぱり完璧に自分の言いたいことをサササっとは伝えられないので、イライラしたりします。子どもや妻にはそういう意味では苦労かけています。

 食道発声が出来るようになったとはいえ、みなさんも感じられていると思いますが、騒音、雑音に弱いですよね。車のエンジン音、水道の流れる音、レストランなんかでは食器を洗う音、空調の音、こういうような食道発声の周波数と近い音のあるところでは、かなりお腹から空気を振り絞って出しても相手に聞こえないことも多いですね。お腹に力を入れて大きな声で話しているつもりでも、大抵は雑音だけ(永久気管孔からの漏れ音など)が大きくなって、結局あんまり伝わらず、しかもこっちはめちゃ汗だくになって、30分も話したらぐったり疲れて、ほとんど言いたいことが伝わらないみたいなことが多いです。なので、会食場所やミーティング場所は上手に選ばないと、コミュニケーションが取れないことが多いです。

 今年はコロナの影響もあり、レジ前に透明のビニールシートがかかっていたり、こっちもマスクをしていたりするので、小さい声ではなかなか伝わりません。だからといって、耳元に近づいて話したいけれど、ソーシャルディスタンスで近づけないし、かえって電話の方が話しやすかったりしますね。

 レストランではなんとなくですが、妻との食事の時もカウンター席で並んで食べてる時が一番楽ですね。話す距離が近いので。

 結論的には、スマホのテキスト(LINE等)をつかって重要なことは横にいる人でも伝える方が的確だったりします。何度も「え?」「は?」って言われなくって済むので。

 レジでのオーダーや家族間であっても「何時にどこ。何をなん個」みたいな話は少しの間違いが大きな間違いになるので、テキストをつかって伝えることが多いですね。

 

6.喉摘者として生活上の工夫や、気をつけておられることはありますか?

 

つんく♂:ファッションに関してですが、どうしても永久気管孔があるので、首もとが気になるところです。僕はテレビや雑誌に出る際、そして普段もそうですが、ストールというかスカーフというか、マフラーほど分厚くはないけど、なにかを巻くようにしてます。

 一つは当然ながら、気管孔へダイレクトにゴミ、埃が入らないようにするガードの役目。それと術後首がとても細くなったので、首が見えると10歳も20歳も老けて見える気がするのもあって、妻の勧めもあって、ストールを巻くようにしてます。

 まず、スポンジガーゼを装着して、首用のマスクをつけて、その上にエプロンみたいなのを(オーダーで作りました)つけてから、お洒落用にストールを巻くので夏場は空調がないとかなり暑いです。特に今年の夏は日本で過ごしたので、雨季の湿度の中での夏は苦しかったです。家に戻るとすかさず、それらを取ります(笑)。あ、なので汗疹も出来ますよね。

 エプロンは手作りされてる方も多いですが、男性で手作りするのも大変でしょうし、みんなでシェアする良い方法があるといいですね。

 

   【タイトル】: ねぇ、ママ?

                        僕のお願い!
 【発売日】:2020年6月19日
 【作者】:(詩)つんく♂/

                (絵)なかがわみさこ
 【定価】:1,400円+税
 【判型】:B6変型
 【出版社】:双葉社

7.最近「絵本」を出版されたそうですね。お話を聞かせていただけますか?

 

つんく♂:この絵本の物語の素は、妻と長男のやりとりがきっかけです。僕がハワイから日本に来ている最中、妻から電話が入りました。「今日は息子に悪いことをしちゃった」と。

 息子は男の子なので急に思い立ったようで、母の日のプレゼントが急に買いたくなったようなんです。僕が日本に行く前にも「なあ、もうすぐ母の日だけどどうする?」って相談はしてたんですが、その時は「別になんか手紙書いとく」くらいでスルーしてたんです。でも、何かの情報が彼の頭の中に入ってきたのか買い物に行きたくてしょうがなくなり、だけどお父さんは日本に行って居ない、でも、ハワイ(アメリカ)は子どもだけで外出は出来ないルールだし、息子は戸惑いながらもママに「買い物に行きたい」と伝えたようで、結果、忙しいママは「パパが帰ってからにしなさい」って話をしたんですが、それならもう母の日に間に合わないじゃんと。でも、買い物に行きたい理由をママに言いたくなく、それでママと息子で押し問答になったようですが、最終的になぜ買い物に行きたいかを白状し、ママはそれを聞いて愕然としたようで、我が子ながらに息子がそんなことを言うタイプとはちょっと考えてもなかったようで、嬉しさと、その小言を言ってあしらった自分に対する葛藤で、それを僕に伝えるように電話してきたわけです。

 その話を出版社のプロデューサーと会話した時に、とても興味を持ち、絵本にしましょう!となりました。それも昨年から企画し、今年のGWに発売予定だったのですが、コロナで発売も延期となり、作品が出来あがっているのに発表出来ないということで、絵本を朗読し、それを無料で動画として公開しよう!と話ました。

 その声優を誰にするかという問題がありました。当時みんな自粛だったのでプロを手配することも出来ず、出来上がってきたラフ原稿を家にいた三人の子どもらに読ませてみたんです。

 ある種、自宅内オーディションですね。その時に、一番自然に感じたのが9歳の次女だったんです。


 

  ◆つんく♂さんの著書『だから、生きる。』の中に次のくだりがあります。「喉頭がんになっても全てが終わるわけではな

   いし、手術して声帯を切除しても食道発声法をマスターし、普通に社会で仕事をしている人もたくさんいる。そのことを

   知って、『僕も負けてはいけないと思った。』と。

 

 

8.これは、つんく♂さんが銀鈴会の教室で練習中の仲間の人達を見て感じられた言葉だと思います。この言葉

  につんく♂さんの生きて行く強い姿勢を感じました。これからもこの気持ちはお変わりないでしょうか?

 

つんく♂:はい、「負けてはいけない」もそうですし、「諦めない」「チャレンジ」「まだやれる」「ここから始める」そういう気持ちをいつももってます。

 銀鈴会のみなさんと(おそらく他の発声指導の場所(会)も同じだと思いますが)接することが出来、たくさんの事を再確認というか、学ぶことが出来たことに感謝しております。みなさんが明るく、とても前向きだったのが強く心に残っております。僕もそうだったように、術後、声を失って絶望感のまま参加している初心者のみなさんにとって、その明るさはとても心強い状況となったと思います。

 出会う方は、大抵僕より年配の方が多かったのもあって、20代の頃から音楽プロデューサーとして若い子の指導にあたってきた僕としましては、その状況もとても新鮮で、発声法に限らず、病気に関する予後の話だったり、定期検査のこと、みなさんの普段のお仕事のこと、その後のボランティア活動のことなど色々知ることが出来たことも心強く思いました。

 同士のみなさんと一緒になって「負けてはいけない」「ポジティブに!」という気持ちで、これからも楽しく過ごせるとよいなと思っております。

 

9.最後になりますが、公私においてこれからの夢や希望などお聞かせください?

 

つんく♂:がんの中でもそんなに数多いがんでもないし、特に全摘者となればさらに数は減ります。

 なので、世間的な意味では注目度の低い面もあり、支援を受けることも、寄付を募ることもハードルが高いと思っています。僕は永久気管孔のところにガーゼをつけてるんですが、1枚100円と決して安くはありませんね。保険が効かないのはとても残念です。もっと手に取りやすくなると良いなと思っています。

 仕事に関しては、過去のように僕が歌って指導するようなことは出来なくなりましたが、それでもまだまだ音楽は作れるので、あと少し、もうちょっとと言いながら少しでも日本の音楽界(JPOP界)に貢献できればと思っています。

 どうぞ、今後もよろしくお願いいたします。